好きになった瞬間の切り取り方|村神千紘

私、村神千紘が日常見かけたなにげない風景や流れてゆく時間の中で感じたこと、手の届く物、届かない物でも興味を惹かれたものについて、現在進行、あるいは少し昔を振り返ったりしながら書いていきたいと思います。

三浦半島、荒崎と旅客機とトンビと

第8日目は航空機とひこうき雲について書いていきたいと思います。

神奈川県横須賀市三浦半島の先端に近い相模湾に面して長井町という町があります。葉山方面から三崎口に向かい、自衛隊の駐屯地の先で海沿いの道に入り、行き止まりまで行くと岬があります。それが荒崎という小さな岬で、その手前に荒井という小さな漁港と集落があるのです。

 

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学生の頃、その荒井漁港に面した集落で夏の一ケ月間合宿生活をしていたことがありました。当時は商店が二軒、釣り人を対象にした民宿が一件、食堂はなかったと思います。もちろんおしゃれなカフェもレストランもありませんでした。路線バスの終点で、集落の広場でバスが折り返していました。

 

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バスが転回する広場に面して商店と住宅のほかに、古い集会所と公衆トイレ、漁具置場が並んでいるだけでした。秋冬の合宿地の森戸海岸から夏の合宿地に船を回航させ時、船外機付きのボートに揺られながら回航先の港と小さな集落を初めて認識した時の光景が、少し左右にふらついてはいるものの、ありありと記憶の中に映像として残っています。

荒井の集落には取り立てて華やかなものはありませんでしたが、ウルトラマン仮面ライダー桃井かおりが主演した映画のロケ地に使われたことがありました。神社があり、岬があり、小型の漁船と少しのヨットが見え、昼下がりには老人たちが道端に座って漁網の繕いなんかをしていて、その陰を無数のフナムシが這い回る、のどかな漁港でした。上空を何羽ものトンビが舞い、ひっそりとした集落に彼らの鳴き声を響かせていました。

 

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晴れ渡った空を見上げれば、ジェットエンジンの音を後方に置き去りにした航空機が、東から西へ向かって一直線に飛んで行くのがはっきりと見えました。見上げている間、少しずつ違った航路を選んで飛行する航空機が、数分の間隔で見えるのです。たぶん、羽田から関西方面の都市に向かっている旅客機なのでしょうね。

旅客機を見ていると、まだ自分が行ったことのない土地や国のイメージが湧き上がってきます。なぜか、お尻のあたりがざわざわ、むずむずしてきて、自分も旅立ちたいと思うのです。重くかさ張るスーツケースを転がしながら、国際空港に足を踏み入れた瞬間の空気感や、館内に流れる外国語のアナウンスや独特なチャイムの音。人々のざわめき。スーツケースを預けて身軽になり、無事にセキュリティーチェックを通った後のなんともいえない解放感をまた感じたいと。

ここ数年は、海外旅行をしていません。

それは決してネガティブな理由からではないのですが、今後、あの時のような感覚を味わえる日がまた、くるでしょうか?

 

P.S.

荒井漁港には食堂はありませんが、隣の長井漆山漁港には、漁港に面して「あらさき亭」という地場の魚を食べられるレストランがあります。

荒崎を訪ねた際には、ぜひどうぞ。

 

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