好きになった瞬間の切り取り方|村神千紘

私、村神千紘が日常見かけたなにげない風景や流れてゆく時間の中で感じたこと、手の届く物、届かない物でも興味を惹かれたものについて、現在進行、あるいは少し昔を振り返ったりしながら書いていきたいと思います。

ヴィブモン・ディモンシュ、鎌倉、葉山、Cafe Sorte、ブック・カフェ・ギャラリー PNB-1253 のこと

第6日目はカフェについて書いていきたいと思います。
数年前になりますが、休みが取れると気になっているカフェだけを目的に遠出をしていた時期がありました。情報はカフェ好きな方々のブログなどからいただいて、その中で自分のフィーリングに合いそうなカフェを選びました。

そんなカフェをいくつか紹介したいと思います。

1件目はあまりにも有名過ぎて、わざわざ私が紹介する必要もないのですが、カフェ好きには避けて通れない一軒だと思いますので紹介したいと思います。

鎌倉の『カフェ・ヴィブモン・ディモンシュ』。

鎌倉駅前から小町通り鶴岡八幡宮方向に進み最初の通りを左に入って数十メートル先の右側にあります。店先の2客のベンチが目印です。

店名はフランス映画、『日曜日が待ち遠しい!」(原題「Vivement Dimanche」)から取られているそうです。

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数回しか行っていませんが、一度だけマスターがカウンターにいらしたことがありました。

『カフェ・ヴィブモン・ディモンシュ』をというよりも、堀内隆志さんを知ったのは、実を言いますと永井宏という人を通してだったのです。

永井さんの著書を初めて手にしたのは、渋谷パルコの地下にあったリブロでした。

リブロが私にとっての、永井さんへの、あるいはサンライトギャラリーへの、そして葉山カルチャーへの扉だったのです。

もちろんそれまでに、葉山へは何度も行ったことはありました。学生時代、冬の一ケ月、暮らしたこともありましたし、葉山マリーナのプールで開かれていたコンサートへも行きました。

でも、リブロで開いた扉から覗いた葉山は、私の認識の中の葉山とは少し位相の違った葉山だったみたいです。

その証拠に、その後何度も葉山へ行っていますが、やっぱり永井さんを通して覗き込んでいた葉山は、別の場所にあるような感じを抱き続けたままだからです。

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私はクリエーターでもアーチストでもないので、サンライトギャラリーにふさわしい人間ではないことは分かっているのですが、永井さんの著作を読みながら、自分をその空間において、空間によって自分が、また自分の存在によってその空間がどのように有機的に変化するだろうか、ということをイメージするのは好きでした。

それは自分にとって、とても心安らぐ豊かな時間だったのです。

2001年に短編小説集『雲ができるまで』(復刻版)が発売され、帯に堀内さんのコメントがありました。そして、たぶん堀内さんがモデルになったのが『カフェ』という一編なんだと思います。

そして、永井さんが出版した、『ロマンティックに生きようと決めた理由』で、まだ顔も知らない堀内さんの文章に触れたのです。2003年のことです。

永井宏さんについては、別の機会に改めて書きたいと思います。

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紹介すると書いておきながら、肝心のお店についてほとんど紹介できていませんが、多くのブロガーさんが素敵に、上手に紹介されているのでそちらをお読みいただき、今まで機会のなかった方は是非『カフェ・ヴィブモン・ディモンシュ』へ行ってみてください。

まったりとした雰囲気の、笑顔の素敵なマスターに会えますよ。

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2件目は埼玉県日高市梅原にある『Cafe Sorte』です。

県道15号線を川越から秩父方向へ走り、日高陸橋を過ぎて約2キロ先の右側にお店はありました。

訪ねたのは数年前の12月30日でした。営業されているか不安でしたが、幸いお店はオープンしていました。

外観は古い蔵を手直ししただけに見えましたが、内部は窓こそ小さいものの、天井の高い落ち着いた空間になっていました。頭上を左右に梁が通り、一部中二階のようなスペースもあるようです。

左手奥のカウンターに店主の近藤佐代子さんがいました。『wagasiasobi』の浅野理生さんに似ている、と思いました。ルックスは違っているので、彼女の職人的な部分から生まれる雰囲気がそう感じさせたのでしょうか?

近藤さんはバンクーバーバリスタの修業をしてきたそうです。

年末の中途半端な時間だったためか、来店するお客さんがいなかったので、近藤さんから色々とお話が聞けました。

土蔵の改修、土づくりから始まり、木舞をかいて手作業で土壁を塗り直して、4ヶ月前にカフェをオープンした話。

土壁の塗り替えは、ストローベイルと呼ばれる藁のブロックと土で家づくりをしているカイルさんという人に手助けで、家の前にで大きな舟を作って土づくりをしたこと。

ストローベイルという建築工法があることを初めて知りました。

出身は飯能市をはさんだ東京都のA市で、パートナーは園芸関係の方で、などなど。

『グーグルマップで住所から検索すると、数百メートル離れた南西の農地が表示されてしまう』とか、『ストリートビューで見られるのは、ポツンと残った改装前の土蔵だけ』なんてお話をしたのを今でも覚えています。

その後、お子さんも生まれて育児と営業を両立させているようです。

今ではグーグルマップでも正しい位置が表示されますし、ストリートビューでしっかりとお店が確認できます。

私が訪ねた日から数年経っています。どなたか行かれた方で、どんなお話をされたか、是非お聞かせください。

 

3件目は同じ埼玉県皆野町の『ブック・カフェ・ギャラリー PNB-1253』です。

三沢川が荒川に合流する辺りで、近くには長瀞のライン下り舟乗場があります。

茶色い板壁の建物です。入口を入ると小さなギャラリーで、その奥がカフェになっています。

カフェスペースに入った左手にストーブがあって、背後の白い壁がもこもこと波を打っています。これは、ストローベイルという藁のブロックと土で作った壁らしいです。

ベンチも藁のブロックと土で作られているようです。

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カフェスペースの正面にカウンターがあります。

カウンターの右手には書棚があって、古書の販売もしています。

何冊か手に取ってみました。その中に、『住宅作家になるためのノート』という本がありました。

しばらく悩んで、結局書棚に戻してしまいました。読んだことのある文庫も何冊かありました。

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窓から見渡せるのは近い山並みに包まれるような小さな盆地状になった、のどかな農地です。

日は山の端に隠れ、薄い煙がゆっくりと盆地に流れ込んでいるように見えました。

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店を出て、車に乗り込む前に少し畦道を歩いてみました。

土と枯草の匂い、どこかで枯れ枝でも焼いているような匂いとひんやりとした冬の空気が鼻腔を刺し、記憶のどこかをくすぐります。

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記憶の迷路を彷徨っているうちに、冬の薄闇がゆっくりと漂い始めていました。

夜の闇が急ぎ足で近付く中、帰路につきました。

車窓を過ぎる、街灯や家々の明かりに交じって『住宅作家になるためのノート』のライムグリーンの表紙が浮かんで見えました。

購入しなかったことを後悔し始めた時には、寄居の町の明かりが見えていました。

帰宅後、就寝前にアマゾンで『住宅作家になるためのノート』を見つけて購入しましたが、なぜカフェで見つけた時に購入しなかったのだろう、売り手と買い手がダイレクトにつながっている状況をみすみす放り出してしまって、という後悔がしばらくの間、煙のように頭の中に漂っていました。

物を買うことって、その行為の意味や価値のすべてがその物のなかに丸ごとあるとは限らないのです。

作り上げられたものの持つ機能としての価値と、それを作り上げるまでに費やした時間と過程の持つ価値が、必ずしもイコールではないように。

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住宅作家になるためのノート』。いい本です。

 

カフェについてはこれからも書いていきたいと思います。

誰でも、お気に入りの、とびきり素敵なカフェをいくつかお持ちなのではないでしょうか?

もしそんなカフェがありましたら、是非教えてください。

価値観を共有できそうなお店があれば、時間を作ってすっ飛んで行きたいと思います。

よろしくお願いいたします。